2018年度 設計演習Ⅱ「彦根都市ミュージアム」課題提案一覧
【設計課題】
彦根という都市の文化を収蔵し、展示するためのミュージアム(美術館・博物館)を設計してほしい。1600年の江戸開府以降に開発された”新都市”彦根とその中心である彦根城を通じて、彦根一帯の都市・自然・建築の魅力を伝えるとともに、現代に生きる私たちにとって未来を考えるための学びがあるミュージアムである。一般的に現代のミュージアムで求められる展示、保存・調査、教育といった機能を満たしつつ、魅力ある建築の形を考えたい。計画には、企画展示場と常設展示場、ワークショップや講演会などを開催するための多目的エリア、ショップ・カフェのような集客スペースとともに、収蔵庫や修復室、荷解場、事務室といった諸室も含める。
現在の彦根城博物館には、絵画や彫刻といったいわゆる美術作品ではなく、甲冑や旗、刀剣、武具といった戦国時代からの遺産に加えて、茶道具や雅楽器、能面・能装束、書画、古文書といった文化財クラスの美術工芸品が多数収蔵され、一般に公開されている。今回の「彦根都市ミュージアム」は主に城や町家といった建築や都市に関わる展示のための増築である。このミュージアムでは、既存の博物館と同様に文化財で構成される常設展示場と、彦根という都市や彦根城という建築、また、広く琵琶湖を含めた湖東地域を視野にいれた自然を展示する企画展示場を設けるものとする。
特にこの課題では、彦根という都市そのものや文化財級の作品群を美的に展示するための方法を追求し、建築的な工夫を凝らしてほしい。
【背景】
ミュージアム(美術館・博物館)は、博物館法の中で次のように定義される。「歴史、芸術、民俗、産業、自然科学等に関する資料を収集し、保管(育成を含む)し、展示して教育的配慮の下に一般公衆の利用に供し、その教養、調査研究、レクリエーション等に資するために必要な事業を行い、あわせてこれらの資料に関する調査研究をすることを目的とする機関」(第二条)である。
一方で、近年のミュージアムでは、2018年4月の未来投資会議構造改革徹底推進会合(日本経済再生本部の分科会)「地域経済・インフラ」会合における「稼ぐ美術館」を目指す政府方針のように、収蔵品とマーケットを安易に接続する議論も幅を利かせている。この議論自体は公表後すぐに多くの専門家の批判を招いたが、日本のミュージアムが置かれている文化的基盤の危うさを物語っていることは間違いない。
【計画敷地】
所在地:彦根市尾末町1番38号(現在の彦根市民会館)
敷地面積:6,064㎡
滋賀県東部に位置する彦根市は、湖東エリアの主要都市であるにもかかわらず文化施設の充実度は高くない。市内で体育施設の整備が進む中、県内西部の文化ゾーンにある県立近代美術館(再整備中)とともに、湖東エリアにも公設のミュージアムの設置が望まれる。
敷地となる現・彦根市民会館は、市内最大の観光地である彦根城と、交通の玄関口であるJR彦根駅の中間地点である。2017年に開城410年を迎えた彦根城は一帯の景観の要である。彦根城は天守が国宝に指定された全国五城のひとつであり、町並みや自然と一体となった城郭建築として価値ある存在である。また、彦根市の近郊にはW・M・ヴォーリズの作品も多数残されており、滋賀県は建築の歴史に見守られたフィールドだと言えるだろう。
【設計与件】
1. 延床面積2,500〜3,000㎡程度
2. ランドスケープ…周辺地域との関係を考慮して、駐車場8台(地上)を含めて設計すること。
3. 展示物を具体的に想定して設計を行うこと。
・常設展示室…彦根城博物館が所蔵する美術工芸品や古文書から構成される。
・企画展示室…彦根城を中心に、彦根の都市、自然をテーマにした企画展を考えること。
・多目的エリア…ワークショップ、映写室、実物展示、会議スペース、ライブラリーなど、現代のミュージアムにふさわしいアクティビティを考え、自由に設定すること。
4. 構造形式や階数は問わないが、設計に合わせて適切な構造計画を行うこと。
5. 自然環境について考え、光、風、水など自然エネルギーの利用、省エネルギーを考えた
建築計画とすること。
6. 各スペースの運用方法もよく考慮し、公共建築としてふさわしい姿を提案すること。
7. 設置主体は国または地方自治体とする。受益者像を想定すること。
担当教員:白井宏昌、山崎泰寛、芦澤竜一、金子尚志、陶器浩一、東福大輔(非常勤)
TA:橋本光佑、倉増音
【合同講評会選出 5提案】
↓藤澤忍
↓高橋風也
↓松井岳大
↓田口湖都
↓牧田弥果
↓三澤絋大